事例から学ぶ!開業リスクとうまく付き合っていくための定量化&対策
開業希望者からときどき以下のような相談を受けます。
・返せなくなるかもしれないため、借入れはしない。手持ちのお金だけで開業できる方法はないか。
・できるだけ内装費をゼロにしたい。自宅マンションで美容室をできるようにするにはどうしたらよいか。
・絶対に失敗しないという確証がほしい。ポイントはあるか。
こうした相談はどれも「失敗したらどうしよう」という不安から来ています。
開業費用などを算出して見せると、「これだと開業はしないほうがいいですね」と諦める方もいらっしゃいます。
開業したサロンが将来うまくいく保証はありません。
失敗するリスクはあります。
リスクをゼロにすることはできません。
リスクはある、なしで考えるのではなく、「どの程度のリスクなのか」で考えなければなりません。
開業者はリスクがあることを想定して事業計画を立てるのです。
目次
リスクを定量化しよう
サロンビジネスにとってのリスクとは、「サロンが潰れるリスク」と「自分の生活が維持できなくなってしまうリスク」にわけることができます。
どうなったらサロンが潰れるか、生活が厳しくなるかは、数値などでわかりやすくすることが大事です。
ここからは開業サポートを受けていただいたオーナーの事例で考えていきましょう。
以下がサロンの情報です。
・サロン規模:5席2台(18坪)
・家賃:246,000円
・スタッフ:1人スタイリストが入る予定
・自身の見込み客(現サロンで3年勤務/現サロンから2駅離れる):80人/月は硬い
※単価は11,000円くらいにはなる
スタッフが入らない可能性
スタイリストを一人雇用する予定でしたが、オーナーもそこまで仲が良いわけではなく、もしかすると来ない可能性もある、とのことでした。
そうすると、当面一人で運営することになります。
しかしそれにしてはハコが大きすぎます。
ということで、一人でサロンを営業できるかをシミュレーションして、リスクを考えてみました。
もしスタッフを雇えない場合には、自分の想定売上を見越しても、21万円程度(図の一番下「現金収支」)の現金収入を見込めることになります。
ここから生活費が出ていくことになります。
サロンは利益がでますが、生活に影響がでるレベルと言えそうです。
見込み客が来ない可能性
さらに想定よりも少ない客数だったとしたら、を考えました。オーナーには毎月100人程度の指名客がついており、お客さまへの告知も許されていました。
しかし、想定よりも見込み客が少なくなると現金収入が減ってしまいます。
そこで今度は、現金収入が見込めないラインを数値でだしてみます。
すると客数55人を切ると現金収入がない状態になってしまいそうでした。
見込み客のうち55人以上は確実に呼べないとまずいということになります。
赤字が続く可能性
仮にしばらく赤字が続きそうな状態がつづいたとしたら、費用として少なくとも家賃や広告費などをの支払いが発生します。
一人だった場合、キャッシュとして40万円程度毎月出ていくリスクがあります。
3ヶ月〜6ヶ月を想定すると120万円〜240万円の支払いが発生します。
今回のケースでは、「ハコの大きさに対してスタッフが確保できない」ときのリスクを定量化してみました。
このように、売上が伸びないことによって発生するリスクを数字で出すことは非常に重要です。
リスク対策を考えよう
今回のケースでは、ハコの大きさに関わらず、スタッフが入らなくても、収入は得られることは考えられそうです。
しかし、生活の維持という視点では収入が少なすぎます。
スタッフを雇って軌道に乗せるまで、維持できるかを考えます。
そこで、オーナー自身の生活費を算出してもらいました。
おおよそ毎月30万円の家計支出でした。
ということは、万が一、スタッフが雇えなかった場合、少なくとも10万円ずつ貯金が減っていく可能性があるわけです。
そこで、2つのことを準備します。
1)事業用の資金以外に貯金を確保しておく。
家族の資産を含めて、事業のためにお金を使い、いくら残すのかを計算します。
2)親族にも支援を依頼できるかを調べておく。
頼れる親族はいるのか、配偶者が働いている場合に収入はどのくらいか、などを確かめておきます。
次に、「見込み客が来ない」「赤字が続きそう」というリスクについては、開業資金のバランスと資金繰りを考えていきます。
客数が55人以下では収入がゼロになってしまうので、新規集客に頼らなければなりません。
開業資金計画の中で、十分に広告宣伝費を用意する必要があります。
ホットペッパーだけでなく、チラシやフリーペーパーなどへの投稿も選択肢に入れます。
営業してからも、いくつか手を打てるだけの資金の確保は必須です。
あるいは、最初のうちは親族や友人を通して、紹介を促してもらうという手も考えなければなりません。
赤字でもキャッシュがあればサロンは潰れません。
借入金の返済に据置期間を設けて、当面キャッシュが減るのを抑えます。
クレジットカードでの支払いを増やして、支払いを遅らせることもできます。
想定されるリスクにある程度準備ができると、リスクをコントロールをしやすくなるのです。
リスクとうまく付き合って開業を
リスクゼロの開業はありません。しかし、リスクの高い低いはシミュレーションで予測できます。
例えば、今回のケースでは、急に一人になったときでも、利益はでる可能性があることがわかりました。
これがもしも家賃50万円だったとすれば、スタッフが入らないリスクは非常に高くなります。
そうすると「確実にスタッフが入ってくれることがわからない限りは、ハコを小さくすべき」という判断になっていました。
リスクが想定できる場合には、きちんと洗い出しをして、定量化して、対策をすることで克服できるケースも沢山あります。
もちろん100%大丈夫という保証はありませんが。
これから開業をされる方は、リスクを怖がるのではなく、うまくリスクと付き合って、開業準備を進めていってほしいと思います。
●文/コンシェルジュ室:安斎
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。