専門家から学ぶ税務・労務<第2回> スタッフを雇った場合の手続き
SALONスターターでは、開業相談でよくある質問について税務・労務の専門家にお答えしてもらうコラムを定期的に配信しています。
今回は第2回、スタッフを雇った場合の手続きについて、みなと労務センターの濱田社会保険労務士に解説いただきます。
多くのサロンオーナーはまずは小さくサロンをスタートさせます。そして「売上を大きくして、法人化して、しっかりスタッフに還元しよう」と考えます。
法人化したら、正規のスタッフを雇ってからはじめて社会保険を意識することも少なくありません。
しかし、たとえ小さなサロンであっても、個人事業主であっても、従業員を一人でも雇ったら、保険加入の義務が発生します。
目次
スタッフを雇用した場合に生じるオーナーの義務とは?
個人、法人関係なく、
① 1人でも雇った事業主は、労災保険に加入する
② 週20h以上勤務する従業員は雇用保険に加入させる
という義務が生じます。
「パートでもバイトでも、これは義務なんですよ」と話すと、驚かれるオーナーが少なくありません。
では、加入手続きをしなかったとしたらどうなるでしょう?
労災保険に入らなかったら?
もしも未加入のまま労災事故が起きてしまったら、さかのぼって保険料を徴収されるほか、追徴金さらには保険料の全額もしくは一部を徴収されるケースもあります。
「どれだけペナルティがあるの?」ってくらい大変なんです。ちなみに労災保険料は事業主が全額負担で、スタッフの個人負担はありません。
対象従業員を雇用保険に加入させなかったら?
雇用保険の加入状況についてハローワークから調査が入ることがあります。
加入要件を満たしているのに未加入の従業員がいた場合、
① 過去2年までさかのぼって雇用保険料を支払う
② 助成金が受給できない
③ ハローワークでの求人ができない
といった不利益が生じます。
従業員も失業手当を受給できないという不利益を被ります。
最初は労働時間が少なかったとしても、週20h以上勤務するようになった従業員には、すぐに「義務なので加入しますね」と伝えてください。
それで渋るようでしたら「育児や介護で休業したり、退職した際、給付金がもらえる資格が生まれますよ」と一言付け加えるといいかもしれません。
スタッフのために社会保険に入りたい!社会保険に加入するメリットとは?
従業員が5人未満の個人事業所が加入できる社会保険は原則、国民健康保険と国民年金のみです。
しかし、スタッフへの保障をもっと充実させたいということでしたら、任意で社会保険に加入することができます。残念ながら事業主本人は任意でも加入できません。
【社会保険に加入するメリット】
① 家族を扶養に入れることができる
② 国民年金だけより年金の支給額が多くなる
③ 業務外のけがや病気で欠勤せざるを得なくなった場合の給与保障がある
採用してから働くまでのプロセスは?
実態に見合った「雇用契約書」と「就業規則」を作成する
トラブルを防止する。信頼関係を築く。イザという時、オーナーを守ってくれる。雇用契約書と就業規則には、こんな力と役割があるのです。
だからこそネットから引っ張ってきたひな形、つまり一般的な内容だけでは不十分です。自社の実情に応じたアレンジが必要不可欠。専門家指導の元、心を注いで骨太な二本柱を作るべきだと考えます。
【雇用契約書】
アルバイト用と正社員用とそれぞれ作成します。働き方や雇用形態が変われば、そのつど新しく作成が必要です。
<チェック一例>
・試用期間を設けてますか?
・無期雇用か有期雇用か話し合いましたか?
・賞与支給が「有」か「無」か曖昧にしていませんか?
・定年の年齢、継続雇用の年齢の記載は?
【就業規則】
「いつ作った方がいいですか?」「そもそも作った方がいいんですか?」よく聞かれる質問ですが、これも最初のタイミングで作成することをオススメします。
「雇用契約書や就業規則がずさんだったがために、助成金の申請ができなかった!」というケースを何度も見てきました。実態に見合っているかをしっかりチェックしてください。
さらに就業規則は一度作ればOKというものではなく、法改正に伴い5年に一度は見直しが必要です。この辺まで教えてくれる社労士であれば信頼できるといっていいでしょう。
労災保険と雇用保険の加入手続き
1)労働基準監督署から専用用紙を取り寄せ、労災保険の届け出をします。保険料を計算し、概算額を記入。登記簿謄本、賃貸借契約書、住民票等、添付書類もたくさんあります。
2)1の成立後、雇用保険加入が必要ならハローワークにも届け出ます。同時に、加入要件に当てはまる従業員の雇用保険取得届も作成します。
ざっとこんな感じで手続きがありますが、自力で調べて行うこともできなくはありません。が、自身でやり遂げた猛者を私は知りません。ここは専門家にまかせた方が得策です。
給与計算の準備~自分でするか、まかせるか
ご自身の給与ソフトで計算される方も増えてきました。じゃあ専門家に頼む意味って何?ってとこなんですが、「給与計算にまつわる法律を理解した上で、数字の裏側まで読み取れるか」だと思います。
頻繁に行われる法改正に対応する。支給方法の有利と不利を見極める。助成金申請を視野に入れた給与設定をする。
我々は、こういったソフトでは難しい部分まで360度注視しながら、つどベストな解を導き出します。
まとめ
スタッフを雇った場合の手続きについて、濱田社会保険労務士に解説いただきました。
人材不足は美容業界のみならず、あらゆる分野で深刻になっています。事業者側は、顧客だけでなく従業員の満足度も意識しなければなりません。
その第一歩は、加入義務のある雇用保険、労災保険だと思います。開業相談でも社会保険に関する問い合わせが来ますが、多くは「知らなかった」という理由で加入していないケースがほとんどです。
正しい理解のもと働く環境を整えることもオーナーとしての重要な役割です。しかし、オーナーになったばかりの人が労務を知らないのは当然でもあります。
だからこそ専門家が存在しています。サロン経営のすべてをオーナーがやる必要はありません。オーナーはあくまで美容のプロであり、自分の強みを活かして事業を大きくしていくべきです。
できないと思うこと、苦手だと思うことは専門家に任せるのも一つの手だと思います。
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社会保険労務士
濱田 誠(はまだ まこと)
みなと労務センター 濱田社会保険労務士事務所代表。
社労士歴20年。自他ともに認めるマメさから「豆ヂカラ社労士」として商標登録。
社内向けの労働法研修、人材育成にも力を入れている。
年金アドバイザー、メンタルヘルスマネジメントの資格も保有。
Tel. 03-5777-2124
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。