専門家から学ぶ税務・労務<第4回>ブラック企業にならないための労働についてのあれこれ!

公開日:2022/10/24  更新日:2022/10/24
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ビューティガレージ 専門家

美容室は、労務管理が難しいといわれる業種の一つです。何を労働時間とするのか?手待ち時間は?カット練習は?店長の残業代は?

 

「知らなかった」

 

労務管理トラブルは、このワードから生まれます。せっかく築き上げたスタッフとの信頼関係が崩れてしまったり、ブラック認定されてしまった日には、悔やんでも悔やみきれません。

 

トラブルを未然に防ぐためには、一つひとつ労働基準法に沿って行うこと。安心して長く働ける環境を作るためにも、曖昧だった点をクリアにしていきましょう。

 

今回も、はまだ豆ヂカラ社会保険労務士法人の濱田社会保険労務士に解説いただきます。

 

ビューティガレージ 社労士

 

 週、月、何時間働かせたらダメ?残業は?(法定労働時間・正社員/パートの違い)

法定労働時間を守る

「繁忙期はぶっ通しで出てもらうけど、予約のない日にテキトーに休んでもらっていいから!」

 

これの何が危険かわかりますか?忙しいからといって、または本人が希望するからといって、好きなだけ働かせていいわけではありません。

 

労働時間は、労働基準法により上限が決められています(=法定労働時間)。

 

これは、正社員もパートも同じ。原則があり、サロンのスタイルによっては例外を採用することもできます。

 

《原則》1日8時間、週40時間以内
《例外》①1店舗のスタッフが10人未満なら「週44時間以内」までOK
②「変形労働時間制」を導入すると、1ヶ月の労働時間の総枠でシフトを組める。予約や繁忙期に対応できる。(31日の月=約194時間、30日の月=約188時間)

 

休憩時間の目安ってどのくらい?

休憩時間とは「完全に職務を離れた状態で、自由に使える時間」のこと。法律では以下のように決められています。一回で取らずに、複数回に分けてもかまいません。

 

《労働時間》 《休憩時間》
6時間以下 与えなくてもよい
6時間を超え8時間まで 少なくとも45分
8時間を超える場合 少なくとも1時間

 

お客様待ちは休憩か、労働か。

施術も接客もしていない「手待ち時間」。

 

法律上、上記を休憩時間とみなしますので、電話や来客があれば対応する手待ち時間は、当然「労働時間」に含まれます。

 

働いてないのに給料払うのか・・と思った方、ここは一つ発想の転換を。スマホをいじって漫然と過ぎてしまう“労働時間”とならないような工夫をしてみましょう。

 

課題や改善策を出してみたり、お客様トークを勉強したり。

 

「緊急ではないが、重要なこと」に取り組む“投資時間”とすることで、個々の成長やサロンの発展にもつながります。

 

閉店後のカット練習は残業になるの?

「技術を磨くのは、営業時間終了後。」

 

業界の慣習となっていますが、ここで問題となるのが「練習時間は労働時間なのか、残業代は発生するのか」という点です。

 

あとから揉めないためにも、ルールを明らかにしておきましょう。

 

ポイントは「強制か、自主的か」。業務の一環として、指揮命令下で行っているのであれば「労働時間」。給料を支払い、残業代も支払います。

 

自主的に練習している場合は、労働時間に含めません。残業代も発生しません。

 

うちは自主的だからよかった~なんて安心は禁物。自主練習の際には、必ず事前申請するよう義務づけてください。

 

言った言わない、やったやらないはトラブルの元。面倒でも記録に残していくことで、円満な雇用関係を守ります。

 

 店長は管理者だから残業代は不要?(「名ばかり管理職」にならないための条件とは)

店長、マネージャー、責任者。誤解されている方が多いのですが「〇〇という肩書を与えれば、残業代を払わなくていい」わけではありません。

 

役職ではなく、チェックされるのはあくまでも「実態」です。十分な権限も見合った報酬もなく、残業代なしで長時間労働を強いられてきた“名ばかり管理職”は、大きな社会問題となりました。

 

「店長=管理監督者」と認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。

 

管理監督者の条件

  1. 採用や人事考査の決定権限がある。
  2. 経営方針や予算管理に対して発言権がある。
  3. 勤怠管理や就業規則などの拘束を受けない。
  4. 他のスタッフよりも高額な報酬を得ている。

 

じゃあ、管理監督者は全部自由でいいの?

管理監督者には、決まった就業時間というものがありません。

 

遅刻・早退・欠勤控除もなく、残業代や休日出勤手当も発生しません。ただし「有給」と「深夜残業代」に限っては、一般のスタッフ同様に発生します。

 

その点もふまえ、勤怠管理は必ず行ってください。労働時間の管理は、経営者の義務。健康面の管理にもつながります。

 

フリーランス美容師なら、長時間働かせてもOK?(個人事業主同士の契約の注意点)

「スタッフを雇うか、業務委託するか。」

 

仕事内容が似通っていたとしても、この二つはカニとカニカマほどの差があります。

 

契約を結ぶ前にしっかりと違いを理解すること。その上でどちらの形態が適切かを判断してください。

 

特にフリーランスは、サロン側としても労働保険や社会保険の負担がないため、人件費削減のために取り入れたいというオーナーもいらっしゃるでしょう。

 

けれども、契約後のトラブルが多いのも事実。うっかり違法とならないためにも、知識と注意が必要です。

 

業務委託契約とは?

個人事業主(=フリーランス)に業務を委託する。言い換えれば、独立した事業主同士として契約を交わすわけです。雇用関係はないので、「個人の裁量で業務をやりとげてね」と一任することになります。

 

労働基準法は適用されず、労働保険や社会保険も対象外。

 

道具一つから、業務に関する費用はすべて個人負担。労働時間を管理したり、業務について具体的な指示を出したりすることもできません。

 

始業・終業時間が決められないので、長時間働かせることももちろんできません。

 

問題になりやすいケースと注意点

業務委託という名目であっても、実態は従業員と同じように会社の指揮命令に従いながら勤務している。

 

こういった労働者性が認められる場合には、過去にさかのぼって労働保険や社会保険に加入させられたり、残業代の支払いを命じられたりするケースに発展することがあります。

 

他の社員やアルバイトと同じ業務をしていたとしても、同じ扱いをしないよう注意が必要です。

 

契約がどうかではなく、あくまでも実態で判断されますから、その点どうかお忘れなく。

 

まとめ

労働基準法を知らずにサロンを運営することは、交通ルールを知らずして運転しているようなもの。

 

いちばん怖いのが、知らぬ間に法に抵触してしまっているパターンですよね。

 

そうならないためにも、信頼できる社労士に指導してもらうのが安全です。

 

労働基準法は事業を「縛る」ものではなく、事業主と労働者を「守る」ためのもの。経営を伸ばしていくためにも、労務管理という土台をしっかりと固めていきましょう。

 


濱田誠(はまだまこと)

みなと労務センター
はまだ豆ヂカラ社会保険労務士法人代表

社労士歴20年。自他ともに認めるマメさから「豆ヂカラ社労士」として商標登録。
社内向けの労働法研修、人材育成にも力を入れている。
年金アドバイザー、メンタルヘルスマネジメントの資格も保有。
Tel. 03-5777-2124

 

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ビューティガレージ コンシェルジュ室

日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。

15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。

事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。

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