【二人で開業のケーススタディ】自己資金か?見込み客か?融資審査を考慮した立地選びのヒント

公開日:2022/02/25  更新日:2022/02/25
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美容師

一人サロンが増えている一方で、誰かと一緒に開業したいという相談も増えています。

 

その中で「一緒に働く人の勤務地と自分の勤務地が異なる場合、どこで出店するとよいのか」という質問を受けます。

 

多くは開業者の勤務エリアに近い場所を選びます。あるいは、二人の勤務地の間を取ったエリアを探します。

 

出店エリア選びはサロン経営にとっては非常に大事です。同時に、融資審査にも影響を及ぼします。

 

今回は、実際に開業サポートを行ったAさんとBさんが二人で開業したケースを例に、融資審査を意識した立地選定を考えてみましょう。

 

AさんがBさんを誘って二人で開業を目指す

AさんもBさんも、それぞれ違うエリアで働いていました。

 

最初は起案者のAさんのエリア(東京都中野区)で開業を検討しました。しかし、Aさんは産休明けから復帰して間もないため、見込み客が少ないことが課題でした。

 

一方、Bさんは別のエリア(東京都台東区)で10年以上働いており、アシスタントを使ってですが、月に100人以上の指名客がいました。

 

見込み客から出店エリアを考える

Aさんは、Bさんの見込み客を考慮すると「出店エリアをBさんの勤務地に寄せたほうがよいのではないか」と悩みました。

 

Aさんの勤務エリアで開業する場合

Aさんの見込み客:30~50人

Bさんの見込み客:30人(多く見積もって)

 

Aさんの勤務エリアにした場合、Aさんの指名客が50人全員が来たとしても、Bさんの見込み客は減ってしまいます。

 

Bさんの勤務エリアで開業する場合

Aさんの見込み客:0人

Bさんの見込み客:100人(少なく見積もって)

 

Bさんの勤務エリアにした場合、Bさんの指名客だけでも100人は見込めます。Aさんに新規客がつくまでは、Bさんのサポートができれば120人も夢ではありません。

 

そう考えると、Bさんの勤務エリアで出店するほうがメリットがあるように感じます。

 

自己資金と見込み客で比較する

融資審査を考えると、収支計画では、Aさん自身の見込み客は0に対してBさんの見込み客をあてにしなければなりません。

 

融資担当者の視点では、このケースだと「Bさんが万が一、働かないとなると事業が成り立たないのではないか」という不安がでます。

 

そこで考えられるのは、Aさんの代わりにBさんがオーナーとして独立し、融資を受けることでした。

 

そもそも、どちらがオーナーになってもよいと考えていたため、AさんはBさんに打診してみました。

 

しかし、Bさんは自己資金があまり多くありませんでした。Aさんの500万円に対して、Bさんは150万円しかありません。

 

自己資金 勤務先での指名客/月
Aさん(中野区で勤務) 500万円 30~50人
Bさん(台東区で勤務) 150万円 120人

 

自己資金の面でみればAさんが借入れするほうが良さそうです。一方、見込み客を見ると、Bさんのほうが評価されそうです。

 

こうした状況のなかで、どう判断していけばよいでしょうか。

 

誰が融資を受けるのか

方法としては、法人化してAさんとBさんの資金をあわせて自己資金とすること。もう一つは、自己資金か見込み客どちらかを優先させてオーナーを決めること。

 

二人で開業する場合には、個人事業主と従業員の関係、個人事業主同士の関係、そして共同代表という関係が考えられます。

 

一番ややこしくないのは法人化して共同経営することです。しかし、法人化するためには費用や時間もかかるため、今回は見送りました。

 

すると、どちらかが個人事業主としてお金を借りることになります。

 

今回のケースは、日本政策金融公庫への借入れを検討しています。日本政策金融公庫の審査基準は3つです。

 

1)自己資金が十分にあること。

2)信用情報が問題ないこと。

3)利益の出る計画が立てられること。

 

今回の判断が難しいのは、1)自己資金と3)見込み客、どちらを優先させるべきかということです。

 

自己資金よりも見込み客を優先

結論から言うと、この場合には「3)利益の出る計画」を重視すべきです。

 

大きな理由としては2つです。

 

自己資金の要件は緩和されている

日本政策金融公庫の自己資金の要件を見てみると、総投資額の1/10以上となっています。※

 

もちろんサポートの経験上100万円の自己資金で900万円を借りるのは難しいと言えます。

 

しかし、従来の要件が、自己資金は総投資額の1/3以上であったことを考えると、ずいぶん緩和されています。

 

背景には、自己資金と事業の成功に相関関係がないことがあると思います。つまり自己資金を多く持っている=事業がうまくいくというわけではないということです。

 

自己資金が多いと借入額は少なくなりますが、開業では自己資金も使い切ってしまいます。実質、どんな借入金であっても事業で稼いだお金で返済していくのです。

 

したがって自己資金よりも、指名客が多い=事業の売上・利益の見込みがある程度立つオーナーが評価されます。

 

※日本政策金融公庫『新創業融資制度

 

自己資金は増やせる

もちろん、自己資金がまったくない人は要件にも満たしていないので問題ですが、自己資金には増やせる手段があります。

 

  • 法人化して、一緒に働く人と共同出資する。
  • 親族から支援金をもらう。
  • 手元にある資産を現金化して自己資金にあてる。

 

こうした手段を使うことによって、自己資金が少ないという問題をクリアすることができるのです。

 

また、融資が満額下りなかったとしても、器具の分割支払いやリースといった資金調達の手段もあります。

 

「売上の見込み」はとても大切

サロンの開業で、日本政策金融公庫がお金を貸してくれる背景には「顧客が美容師個人につくこと」を知っているからだと思います。

 

人につく=指名客を連れてこれるということです。全員ではないとしても、新規客をゼロから集めなければならない状況と比べると、売上の見込みが立ちます。

 

これまでの経験上、UターンやIターンでの開業では、見込み客について突っ込まれるケースがありました。

 

特に、UターンやIターンの開業では売上見込みが立ちにくいため、十分な商圏調査や競合調査などを行う必要があります。

 

しかし、ポータルサイトに投資したり、マーケティングツールを使ったり、分析を行ったりしたところで「自分の指名客だけで80万円は確保できる」という主張のほうが、融資担当者は安心するのです。

 

AさんとBさんの結末

結果としてBさんがオーナーとなり、親族から50万円の支援金を獲得したり、美容器具を割賦支払いしたりすることによって、1000万円の融資を受けました。

 

Bさんは勤務先での売上と見込み客リストをもとに、売上計画を立てました。Bさんの見込み客による売上だけで、Aさんの人件費や家賃をまかなうことができる計算でした。

 

見事に融資を乗り切り、Bさんの勤務エリアの台東区でオープンを果たしました。想定通り、オープン初月から黒字発信。新規集客施策もあたり、Aさんにもすぐ顧客がつきました。

 

まとめ

融資担当者は「サロンが利益を出せるのか」に注目しています。

 

共同でサロンを運営したいという開業のケースでは、誰が融資を受けるかという課題がでてきます。

 

その時の基準としては、自己資金よりも、売上・利益を出せる計画を優先すべきです。

 

ここからわかるのは、事業計画書の重要性です。自己資金も大切ですが、利益を出すための計画が確立できなければ、融資担当者はお金を貸しません。

 

お金があるから大丈夫ではなく「この立地で開業すれば売上・利益が立ちやすい」ということを考えましょう。

 

 

●文/コンシェルジュ室:安斎

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ビューティガレージ コンシェルジュ室

日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。

15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。

事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。

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