事例から学ぶ! 居抜き物件でありがちなトラブルと予防策【契約編】
サロン開業の物件選びにおいて、費用の大幅な削減が期待できる「居抜き物件」。
SALONスターターではこれまで居抜き物件についての記事も書いており、スケルトン物件との比較記事や、内覧するときのポイントをまとめた記事などがあります。
今回は一歩踏み込んで、実際に居抜き物件でオープンした後に起こったトラブル事例を紹介しながら、居抜き物件での注意点をお伝えします。
第1回目は、“契約”にまつわるトラブルについてです。
目次
エアコンの故障を巡るトラブル事例
あるオーナーが、居抜き物件に備わっていた美容器具や設備を、造作譲渡料200万円※で前オーナーから購入しました。ところが、オープン後すぐにエアコンが故障しました。
前オーナーからは「5年未満だしキレイだから壊れる心配はないよ」と伝えられていたので、「だまされた」と思い、エアコンの修理代を前オーナーに請求しました。
ところが、前オーナーはそれに応じません。「造作譲渡した時点でサロンの設備は現オーナーのもの」という主張です。
また「壊れる心配はないという言い方はしていない。可能性が低いと伝えただけ」という話になりました。
こうなると水掛け論です。言った言わないのやりとりで双方の主張が真っ二つ。結局、現オーナーは自腹でエアコンを修理しました。
※造作譲渡:居抜き物件において、内装・器具機器・トイレ・エアコンなど、設備全般を含めた一式(造作物)について、退居者と入居者のあいだで譲渡すること。何を含めるかについては双方の交渉・契約によって決められる。
トラブルの原因は“造作譲渡契約”
造作譲渡をした時点で、設備の所有権は今のオーナーに移りますので、仕方がないかもしれません。
ここで問題だったのは、造作譲渡契約を文書として残していなかったことです。
「契約書がない?」と驚くかもしれませんが、実は居抜き物件には2つの契約(2人の所有者)が存在します。
・物件を所有している人=大家さん
・サロンの内装・美容器具を所有している人=前オーナー
このように、居抜き物件の場合には、「物件を借りる契約」と「内装・美容器具を買う契約」の2つが存在するのです。
まずは物件を借りるための契約。大家さんと現オーナーの契約です。不動産会社が仲介に入り、契約をまとめます。これはイメージが付きやすいでしょう。
もうひとつは、物件に残っている造作に関する契約です。これは前オーナーと現オーナーのあいだでの契約です。
今回は、居抜き物件を提供した不動産会社が造作譲渡の仲介をしていませんでした。つまり、前オーナーと現オーナーとの間で直接やりとりをしていたのです。
内装・美容器具を買う契約については、双方の交渉のみで決着をつけて前オーナーにお金を振り込んでいたため、契約書などもなく、このようなトラブルが発生してしまいました。
造作譲渡契約は必ず仲介してもらえるわけではない
居抜き会社であれば、不動産契約だけでなく、造作譲渡に関しての契約も取りまとめてくれます。
しかし、不動産メインの会社だと、造作譲渡契約は取り合わないという場合があります。
こうなると、仲介を挟まずに当事者間で契約を結ぶか、別のところで造作譲渡の仲介をお願いするかになります。
しかし、造作譲渡を仲介できる業者は限られています。さらに、造作譲渡に関する仲介手数料が不動産契約の仲介手数料とは別にかかります。
こうした状況を考えると、前オーナーと直接契約することが望ましいと考えられるでしょう。
では、造作譲渡の契約で必要なこととは何でしょう。
・現オーナーとしては、「故障や欠陥を知っていながら、黙って売りつけないでね。そうなった場合には修理代を払ってね」
・前オーナーとしては、「提供した情報をもとに買うと判断したからには、あとで文句を言ってこないでね」
ということにつきます。
これを当事者間でまとめて、契約書を作ることができればよいのです。
造作譲渡契約での注意点
造作譲渡契約でトラブルを起こさないためには、物件を内観し、造作物について十分に確認することが大切です。特に、以下のようなことを重点的に確認しましょう。
器具・設備の状態をよく調べる
設備の状態について、気になることはオーナーにヒアリングしましょう。たとえば、「購入してどのくらい経っているか」「故障などが生じたことがあるか」を確認してメモしておきましょう。
譲渡物を確認する
すべてを譲渡したいオーナーもいれば、イス・セット面は移転先に持っていきたいと思うオーナーもいます。自分がどれを売ってもらえるのかを確認しましょう。
また、リース契約の器具などがある場合には、リース契約の期間がどのくらい残っているか、契約を引き継ぐことができるのかなども相談する必要があります。
相互に確認をしたことを書面で残す
これが一番大事で、かつ一番難しいところです。書面で残すには、双方の同意が必要です。中には面倒だといって「口頭で済ませよう」と提案してくる人もいます。
取引を記録するのはビジネスの基本ですので、「トラブルを防ぐため」ということを念押しして、確認事項は書面に残すように促しましょう。
まとめ:不動産契約と造作譲渡契約は別
居抜き物件に関しては2つの契約があります。不動産契約と造作譲渡契約です。
ほとんどの場合は、居抜き会社が不動産契約と一緒に造作譲渡契約を仲介してくれますが、万が一「うちは不動産契約しか受けない」と言われた場合には、直接前オーナーと契約を結ばなければいけません。
トラブルを未然に防ぐため、上記の注意点を確認しましょう。
契約を口頭で結んでお金を振り込んでしまったら、どんなに売り手(前オーナー)に瑕疵があったとしても、自分の責任で対処しなければなりません。
居抜き物件に関しては、内観をする前に居抜き物件会社に造作譲渡契約の仲介の有無を確認することをおすすめします。
ただし、あくまで“仲介”ですので、なんらかのトラブルがあった場合でも仲介会社が責任を負うわけではないことも肝に銘じておきましょう。
ビューティガレージの『サロン不動産ネット』では、不動産仲介や造作譲渡仲介も行っております。居抜き物件に関して不明な点があればぜひご相談ください。
●文/コンシェルジュ室:安斎
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。