いくら借りるのが正解? サロン経営における借入金の役割とリスク
サロン開業にあたって必要となる“借入金”。自己資金のみですべてをまかなう場合を除き、何かしらお金を借りる必要があります。
そんな“借入金”に関する質問で多いのが以下の2つです。
1)自己資金だけでサロンを作れるなら、借入は無理にしないほうがよいのか?
2)自己資金を使わず、できるだけ多く借入をしたほうがよいのか?
1)は「できるだけ借入をしたくない」という考えで、2)は「自己資金を使いたくない」という考えです。
このように開業者は、借入金に対して両極端な意見を持っているのです。
今回は、開業における借入金の意味を考えていきましょう。
借入金の役割
借入の目的は理想のサロンを作ることですが、多くの人は自分のお金だけでは足りないため、他人のお金を使います。
そして借入金には大きく2つの役割があります。それは、「投資」と「時間稼ぎ」です。
借入金はサロンという資産(内装・美容器具)に姿を変え、オーナーはその資産を使って営業し、利益を生みだします。
それゆえ、借入金はただの借金ではなく、「投資」という性質を持ちます。
一方、借入金には「時間稼ぎ」という役割もあります。
どういうことかというと、サロンの運転資金を確保するということです。勘違いしてはいけないのが、“借金がある=潰れる”ではないということです。
サロンが潰れるのは、費用を支払えなくなるとき、つまり現金がなくなったときです。借入によって現金を増やすのがもうひとつの役割です。
サロンが安定的に利益を出して軌道に乗るまで、お金がなくならないように確保しておく。つまり時間稼ぎができるということです。
借入をしないリスク
仮に、借入をせずに自己資金だけで開業する場合、どのようなリスクが生じるでしょうか。
考えられるのは、「自分のお金」と「事業のお金」の区別が付けにくいために、自分の生活用の資金まで使い込んでしまう可能性です。
自分の資産が1,000万円あり、そのうち800万円で開業できたとしましょう。
残りの200万円は生活費としてとっておきます。しかし、事業がなかなか軌道に乗らず、赤字のまま家賃や広告費の支払いを続けていくと、現金が減っていきます。
このとき、生活のための200万円を事業に投じてしまうことになります。この200万円で、事業と私生活の資金繰りを行わなければなりません。
つまり、利益の出ないなかで、サロンの賃料だけでなく自分の住んでいる家賃も支払わなければならないのです。
毎日の売上を生活費にあてるようになると、事業をやめられないという自転車操業も起こりえます。
事業と私生活を明確に分けなければ、事業がうまくいかないどころか撤退するのも難しくなるかもしれません。
事業計画書では必ず運転資金が十分に確保されているか、事業にお金を使ったあと自分の生活に使うお金はいくら残るかを確認しなければなりません。
仮に利益がなかなか出なかった場合でも、自分の生活を担保できる環境を整えることが大切になります(配偶者の給与で生活ができる、実家に頼ることができるなど)
借入をしないで開業する人はこの点をより慎重に考えて計画を立てるべきです。
借入を増やすリスク
全財産を事業に投じるリスクを考えれば、借入はしたほうがよいと思います。開業相談でも、できるだけ借入をすることをおすすめしています。
ただし、「できるだけたくさん借り入れるべきだ」という意見には慎重です。
借入は、必ず返済しなければならないお金でもあります。しかも利子(金利)をつけて返さなければいけません。
金融機関がお金を貸すのはこの金利で儲けているからです。そのため金融機関は、高額を長期間借りてくれる人を好みます。
たとえば、1,000万円を金利2.1%で10年借りるとすると、返済額は約1,109万円になります。つまり100万円以上を銀行に支払うことになります。これが7年だと金利は80万円程度ですみます。※
借入を増やさなければ早く軌道に乗せることができたのに、必要以上に借り入れたことで必要以上の金利を支払うのは、サロンにとって大きな損失です。
また、借入金が増えるということは、手元に残る金額が減るということでもあります。
借入金の返済は、営業利益から差し引かれています。先ほどの借入例から見ていくと、毎月の返済が約83,000円。毎月の利息は約10,000円。利息は銀行への支払いですので費用扱いです。
営業利益を40万円と計画しても、そこから83,000円を返済しなければならないので、手元に残るのは317,000円になります。個人事業主はこの残金から生活費を支払うのです。
営業利益だけでなく、実際に手元に残る金額を意識して収支計画を立てましょう。
※日本政策金融公庫『事業資金用返済シミュレーション』で簡単に必要返済額が計算できます。
まとめ:いくら借り入れるかは計画次第
借金はしたくないオーナーもいれば、できるだけ借入に頼りたいオーナーもいます。「どちらが正しいか」という議論には意味がありません。
あくまで判断基準は事業計画書です。
毎月どのくらいの支払う必要があるのか、いつ黒字になりそうか、毎月の返済をしても十分に自分の生活を維持できるのか、などを事業計画書を作りながら予測し、借入額を決定していきましょう。
●文/コンシェルジュ室:安斎
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。