事例に学ぶ! サロン開業時の予算オーバーに対する意思決定プロセス【前編】
サロンの開業費用についての記事で、「同じ1,300万円という開業資金でも、サロンによって使い方が変わる」という話を書きました。
費用については増やしたり減らしたり調節することができますが、資金自体を大幅に増やすのは難しいものです。
物件取得費用、内装費、そして運転資金など、開業の準備を進めていくにしたがって開業費用が明確になっていきます。
費用が明らかになると、「資金をどこまで増やせるのか」あるいは「費用をどう抑えるのか」を考え結論を出さなければいけません。
場合によっては、その物件での開業を見送る選択肢も出てきます。
このように、サロン開業の準備では、“意思決定”のプロセスが非常に大切です。
今回は、私が開業のサポートをしたお客さま・Sさんの話をケーススタディとして取り上げてみたいと思います。
横浜でオープンするSさんのケース
横浜でサロンをオープンしようと考えているSさん。想定しているサロンの環境や資金は以下のようなものでした。
- 4席・シャンプー2台のサロン(15坪くらいの物件を想定)
- スタッフ2人(後輩スタイリスト)を雇用予定
- Sさんの自己資金は150万円/親族からの支援金が100万円
- 働いているサロンの近くで開業を希望。固定客は月100人程度見込めそう。
- 2人のスタイリストは別のエリアから来るため、顧客の見込みが立たない。
Sさんは、最初の段階で開業予算を1,250万円と考えて、融資で1,000万円を借りる計画を立てました。
4席・シャンプー2台程度の規模のサロンの場合、平均して1,400万円くらいはかかるので、予算を超える可能性は十分ありました。
現地調査の結果
1年くらい物件を探し、ついに条件に合いそうな物件が見つかり現地調査を行いました。
以下、物件の情報です。
家賃:22万円
保証金(敷金):220万円(家賃10か月分)
礼金:なし
仲介手数料:22万円(家賃1か月分)
前受金:22万円(家賃1か月分)
保証金(敷金)が家賃の10か月分と高額だったため、物件取得費用に300万円以上かかります。
電気・水道・ガスに大きな問題はなかったものの、内装費は概算で742万円。美容器具と設備の見積もりを出すと、設備資金は以下のようになりました。
サロンを作るだけで予算に達してしまいそうです。
鍵を握る運転資金
Sさんの場合、この物件で開業できるかどうかのポイントは、運転資金にありました。
Sさんはスタッフ2人を雇用するつもりでしたので、人件費が発生します。
さらに、彼らは開業するエリアで働いていないため新規集客が必要で、広告効果の高いホットペッパーへの掲載が欠かせません。
以上のことから、想定される固定費は以下の3つです。
- 家賃
- 人件費(スタイリスト2人)
- 広告費
具体的な数字は以下のようになりました。
家賃22万円+人件費55万円+広告費27万円=104万円
固定費が100万円以上かかる計算になります。固定費ですから、お客さまが来なくても支払いが発生します。
運転資金の考え方はそれぞれありますが、固定費の3か月分は現金として取っておくべきです。つまり、104×3=312万円が必要ということです。
これを先ほどの表に当てはめてみると、
トータルの開業費用は1,600万円を超えてしまいました。
開業を実現するための意思決定プロセス
当初の予算は1,250万円でしたので、370万円もの差があります。どうしてもこの物件で開業する場合、以下の方法を使って差を埋めていきます。
資金を増やす
まずは自己資金を増やせるかどうか検討します。親族からの追加支援を頼んでみる必要もあります。Sさんは、自己資金からあと50万円を捻出できることがわかりました。
また、融資申請金額を上げる方法もあります。計画では1,000万円でしたが、自己資金を増やすことができれば増額できるかもしれません。
親族の支援金を含め、計300万円の自己資金で1,200万円の借入を目指すことは不可能ではありません。
開業費用を減らす
今回は運転資金を減らすことができません。そうすると、内装費・美容器具・設備から削っていくしかありません。
とはいえ、そこまで大きく削れそうにないため、費用を減らすにはローンやリースという手段をとるしかありません。
たとえば、美容器具200万円分をリースにした場合、200万円の現金を浮かすことができます。連帯保証人として両親の名前を書くことになりますが、金額からみてもリースが通る可能性は高いと言えます。
また、ビューティガレージでは「内装費の一部分割支払い」や「保証金(敷金)のサブリース※」などもできるため、Sさんの場合にはリース・ローンによって初期費用を抑える手段は多くありました。
実際の開業準備においては、こうした方法も駆使してその物件で開業できるように努めます。
Sさんが出した結論
上記のような方法を駆使すれば、予算を1,300万円まで抑えて開業ができそうです。しかしSさんが下した判断は、「この物件を諦める」というものでした。
理由は、たとえリース・ローンで初期費用を抑えられても、月々の返済金額が増えることで現金収支が減ってしまうと考えたからです。
2人の後輩スタイリストに顧客をつけて安定させ、サロンを回すためには運転資金の確保が絶対です。
たとえ利益を出しても返済金で取られてしまえば、自分も苦しむことになります。そうした状況はできるだけ避けたいと判断したのです。
私としては、運転資金のうち人件費が少し高いと感じていました。スタッフに見込み客がいなかったからです。そのため運転資金の調整も提案してみました。
しかしSさんは、「一緒に働く仲間を大切にしたい」と考えていました。また、2人は技術の高いスタッフであり、新規客が来ればすぐに売上に貢献できるという信頼もありました。
意思決定には、「何を軸にするか」ということが影響します。Sさんの目指すサロンのコアな部分は“人”でした。
結局Sさんはこの物件を諦め、別の方法で開業をしていくことになりました。
後編につづく
●文/コンシェルジュ室:安斎
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。