まずはターゲット設定! “来てほしいお客様”から考える価格戦略の立て方
前回の記事では、人材不足の状況において、スタッフの負担を減らすために“来てほしいお客さま”を選定することが大切とお伝えしました。
その結果、客単価が上がりサロンの利益につながります。
では実際に、メニューの価格はどうやって決めるべきでしょうか。
美容師としての常識や、働いていたときの価格を参考に決めているオーナーが多いようですが、今回は“来てほしいお客さま”=ターゲットという視点から、サロンの価格戦略を見ていきたいと思います。
さまざまな価格戦略
サロンがメニューの価格を決めるときにはいくつか方法があります。
コストから逆算する方法
施術に要する原料費や人件費を考慮し、そこに利益を上乗せする方法です。美容室のビジネスは原価率も低いので、施術にかかる費用は主に人件費です。
スタッフの給与が時給1,000円だとすると、1時間のカットなら1,000円以上の価格を設定すれば、その差額が利益になります。
競合と比較する方法
出店エリアの競合サロンの価格を見ながら、自サロンの価格を決める方法です。
エリアの平均を参考に価格を設定する場合もありますし、自分がベンチマークしているサロンと比較して価格を決める場合もあります。
顧客ニーズから算出する方法
ターゲットとしているお客さまが「この料金なら利用してもよい」と思える価格を設定します。
客観的な基準はないので、サロンの意思として価格を決めていきます。当然、エリアの平均より高くなることもあります。
まずはターゲット設定が出発点
3つの価格戦略はそれぞれ独立しているわけではありません。コストから逆算して価格を出した後、競合と比較して最終的な価格を決定することもあります。
しかし、最初に考えるべきは“顧客ニーズ”からのアプローチです。お客さまが求めるサロンの価値は多様です。
「髪なんてどこで切っても同じ」とお客さま全員が思っていたら、どのサロンも低価格を目指します。
それこそ、コストだけを計算して利益が出るギリギリの価格で営業すればよい話です。
実際にそうならないのは、髪を切ることで得られる価値が多様だからにほかなりません。
「ここでのカットは、一回のブラッシングだけでまとまるから、朝の忙しい時間に余裕ができる」
「自分の顔がすごく小さく見えるから、ここで切ってもらっている」
あなたのサロンに通うことで、お客さまが得られる価値を明確にする必要があります。これがサロンコンセプトになります。
また、価格への感度も人それぞれです。
ある人にとっては30万円払ってでも泊まりたいと思うホテルがあります。ある人はいくら素晴らしいホテルでも1泊30万円なんか馬鹿げていると考えます。
サロンも同じです。髪を切ってもらうのにいくらなら支払えるかは、お客さま次第なのです。
したがって、最初からコストや競合を見て価格を合わせるのではなく、お客さまに提供できる価値を考えて価格を設定すべきなのです。
設定したターゲットを見つける
ここで落とし穴があります。ターゲットになるお客さまを設定し、彼らにとって価値のあるサービスを作ったとしても、出店するエリアにそのお客さまがいなかったらビジネスは成り立ちません。
だからこそ市場調査が必要なのです。一般的には、出店エリアの人口動態や世帯年収など統計データなどを調べます。
「一人暮らしが多いのか」「子育て世帯は何世帯くらいあるのか」「駅の利用者は1日どのくらいか」などさまざまなデータがありますので、まずは全体像を把握しましょう。
また、ポータルサイトなどで近隣サロンの口コミなどをみると、ターゲットがどんなサービスに満足・不満足を感じているかを知ることができます。
実際にエリアを歩いて、ターゲットが「どんな施設にいるのか」「どの時間帯に何をしているのか」などを観察することも有効です。
最も効果的なのは、お客さまへのヒアリングです。
自分の固定客の中で「特にこの人に来てほしい」という人がいれば、その人に生活状況や髪の悩み、今の施術で満足している点などを聞けば、より具体的にイメージできます。
もちろん、調査だけでそのターゲットがいると断定することはできません。想定したお客さまが来るかどうかはオープンしてからでないとわからないのです。
オープン後は、来店されたお客さまを分析しましょう。ターゲットが違っていれば、実はサロンに求められているものが違っていたと気づくかもしれません。
まとめ
価格を決めるためには、ターゲットを設定することが大切です。“来てほしいお客さま”が求めている価値をメニューに反映させます。
価格には客観的な基準は存在しません。お客さまが「このサロンには○○円払っても通う価値がある」と思うかどうかです。
経済力・年代・既婚未婚・職業・住んでいる場所など組み合わせによって、ターゲットのニーズや抱えている悩みは異なります。
ターゲットを明確にして、その層が美容室に求めている価値を考え、それに見合う価格を設定する。この工夫がビジネスの面白いところです。
開業では「誰にどんな価値を提供するか」をしっかり事業計画書に落とし込みましょう。
●文/コンシェルジュ室:安斎
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。