マクロな視点からコンセプトづくり!人口減少から考える美容室開業のヒント
サロンを開業するとき、事業計画書を作るうえで“外部環境”について考えるのは大切です。
社会や政治、経済の変化によって市場は大きな影響を受けます。
現在起きていることから、「将来こうなるかもしれない」と予測し、「だからこのサービスが求められる」と結びつけることで、サロンのビジョンやコンセプトが生まれます。
目の前のお客さまだけを相手にしていては、大きな社会の変化に気づかない可能性があります。サロンを永続的に繁栄させていくためには、社会の動きについても十分な観察が必要です。
そんななか、2020年代の大きな社会変化になると考えられるもののひとつが“人口減少”です。
2019年には出生数が90万人を切り、自然死亡者数は130万人を超えました。 これから毎年約50万人ずつ人口が減っていき、2020年代の10年間で500万もの人口が減ると予想されているのです。※
今回は、人口減少という社会構造の変化から、「将来こうなるかもしれない」ということを想像してみたいと思います。
※出典
『令和元年人口動態統計の年間推計 | 厚生労働省』
『日本の将来推計人口 | 国立社会保障・人口問題研究所』
業種を超えて消費者の取り合いが起こる
人口減少というのは、お客さまが減ることと同義です。お客さま(需要)が減っていけば、当然サロン同士の競争が激化します。
失敗しないサロンづくりに関する記事で書いた通り、需要が減ると価格は下がります。客数が減って、そのうえ単価も下がれば、売上は思っている以上に下がる可能性があります。
人口減少によってお客さまが減るのは美容業界だけではありません。あらゆる企業(とくに国内市場で活動している企業)が、売上を伸ばすのは難しくなります。
企業の業績が悪化すると従業員の給与は下がります。給与が下がると、人々は支出を抑えようとします。
「スマホの料金が高かったから安い美容室に行こう」「今月は外食が多かったから美容室は来月」という消費者の行動が顕著になると思います。
お客さまの“支出”を、美容室だけでなく、その他のサービスと取り合うことになるのです。
こうした状況の中では、他のサロンと差別化を図るだけでは十分でないかもしれません。
株式会社リクルートライフスタイルが発表した2019年の美容業界トレンド予測ワードは『サロ友』※でしたが、これは、消費者が美容室に“出会い”という価値を求めているということです。
同じ趣味の人が集まるサロンや演奏会を開催するサロンなど、従来の美容室の役割を超えたサービスを探っているサロンも増えているのです。
また最近は、空いているスペースにネイルやエステのブースを設け、トータルビューティーを打ち出すサロンも出てきています。
美容室という枠にとらわれず、提供すべき価値を考える時代になりそうです。
※出典:『美容領域における2019年のトレンド予測 | ホットペッパービューティーアカデミー』
シニア層の存在感が増す
2020年代後半には、団塊の世代(約800万人)が75歳以上に、同時に65歳以上の人口が全体の30%以上になります。
3人に1人が65歳以上のシニア層になるのです。これはかなり大きなボリュームです。
さらにシニア層は、住宅ローンを抱える40代、子育てに忙しい30代、働き始めの20代よりもお金を持っています。
20~40代の働き盛り世代は今後、社会保障の負担が増えるなど、ますます家計の支出を切り詰める傾向が高まるでしょう。
こうした状況を考えると、美容室もターゲットをシニア層にまで広げる必要がでてきそうです。
近年、移動が困難な人への訪問美容などが注目されています。私たちコンシェルジュ室の開業サポートでも、「バリアフリーの店舗デザインを考えるサロン」「介護の資格を取得したオーナー」など、シニア層を意識したサロン作りの兆候が見られます。
人口ボリュームも、貯蓄額も大きいシニア層をどう取り込むかもカギになりそうです。
※出典
『平成30年版高齢社会白書 | 内閣府』
『家計調査報告 | 統計局』
人手不足を補う工夫が必要
人口減少が進めば、消費者だけでなく労働者の数も減っていきますので、店舗の運営にも大きな影響が及びます。
たとえば、スタッフが少ないレストランでは、お客さまが帰った後のテーブルを片付けるのに時間がかかるようになります。次のお客さまが待つ時間も長くなるでしょう。
美容室でも同じです。「シャンプー後にブローするまで待たされる」など、どうしても手が回らないせいでお客さまの貴重な時間を奪ってしまうのです。
今後のサロン運営では、“人手が足りない”ことを前提にした工夫が求められます。
施術面では、オートシャンプーを導入すれば、シャンプーにかかっていた労力を別のお客さまに向けることができます。
料金を安く設定して、ブローなどをお客さま自身で行ってもらうセルフ化も増えるかもしれません。
施術で質を落とせない場合には、できるかぎりそれ以外の業務を効率化します。たとえばレセプション。ネット予約ができたおかげで、電話による予約が減りました。
自動的に予約が確定するシステムは、「電話がつながらない」というお客さまの不満を解消します。
また、支払いにも時間をかけない工夫が広がっています。キャッシュレス決済もその一つ。もしネットを通じて支払いができるのであれば、サロンで会計する必要がなくなります。
人手不足の中で、お客さまがサロンで過ごす時間を価値あるものにするためには、従来の働き方そのものを見直していく必要があるかもしれません。
まとめ:環境の変化からチャンスを見つけ出す
東京商工リサーチは、美容室の倒産、過当競争の激化の背景のひとつとして人口減少を挙げています。※
2020年代、人口減少は今まで以上に急速に進みます。人口減少に対応できなければ、生き残ることは難しくなります。ここで挙げたアイデアはほんの一部です。
「外国人労働者が増える」「シニア世代が孫にお金を渡す」などさまざまな可能性があります。そして、これらに明確な答えはありません。
起きている社会的な変化から「将来はこうなるのでは」と予測を立て、サロンのコンセプトやビジョンづくりに役立てていきましょう。
※出典:『2019年「理容業・美容業倒産動向」調査 | 東京商工リサーチ』
●文/コンシェルジュ室:安斎
ビューティガレージ コンシェルジュ室
日本最大級のプロ向け美容商材のオンラインショップ&ショールームを運営する株式会社ビューティガレージで、サロンの開業・経営支援のコンサルタント業務を担当。
15年以上のサポート実績と、数多くの開業事例、データに基づいた分析で、年間600件以上の開業に携わっています。
事業計画書の作成からお店のオープンまで、サロンオーナーと二人三脚で開業準備を行う「開業プロデュース」が好評。成功サロンを多数輩出しています。